ネタバレがあります。
本編を楽しんだ後に閲覧することをオススメします。
あらすじ
ある夜、警察に追われる1人の男がいた。
男は停車している車に乗り込み運転手に発進するよう強要するが当の運転手は息絶えていた。
このままでは警察に追いつかれてしまうと男が車を飛び出すとゲルショッカー戦闘員が待ち伏せており、捕まってしまう。
男はゲルショッカーで改造され怪人「ウツボガメス」となった。
ウツボガメスは人間をガイコツにしてしまう必殺技「殺人スモッグ」を持っており、その威力を囚人を使った実証実験を執り行う。
だが、殺人スモッグで囚人を殺すことはできなかった。
その原因は殺人スモッグの原料であるヘドロの「質」にあった。
より良質なヘドロを求めてウツボガメスは「都市公害研修所」を襲う。
めずらしく実験失敗
前回のように悪の心を持つ人間を改造対象とするゲルショッカー。
今回は警察に追われているいわくつきの男を捕まえて改造手術を施す。
怪人の名は「ウツボガメス」。
「ウツボ」と「ウミガメ」の特性を持った怪人だ。
この怪人は「殺人スモッグ」という技があり、ゲルショッカーはこのスモッグを使って「東京全滅作戦」を企んでいる。
さっそくブラック将軍は殺人スモッグが東京の人間を全滅させるほどの性能を発揮できるか確かめるため地下牢の囚人を使い実験を開始する。
だが囚人は多少苦しむもののガイコツにならないどころか死にも至らず、殺人というにはもの足りない性能にブラック将軍は憤慨する。実験は失敗だ…
あら…めずらしい…
怪人実験って性能はだいたい設計の時点で担保されているようなので結果は分かりきっているのだが実験したがるのが悪人の性。
開発した兵器を使い苦しむ姿を見て悦に浸る。まさに悪趣味。
それだけに囚人が生存を歓喜しているのを目の前にして怒りが沸々と湧き上がる。
ウツボガメスに問いただすと意外な原因が判明する。
それは殺人スモッグに必要な原料の「質」に原因があった。
ゲルショッカー研究員が作ったヘドロの質はウツボガメスが満足いくものではなかったらしい。
あまりの不満足に科学陣を襲いかねない勢いで研究員がブラック将軍の後ろに隠れて怯えている。
ウツボガメスが要求するヘドロの質はかなり具体的で「2年前の田子の浦の最も汚れきったヘドロが必要」なようだ。
ブラック将軍にここまで注文を付けられる度胸も凄いし意外とグルメな怪人だ。
田子の浦港ヘドロ公害
「田子の浦港ヘドロ公害」とは1960年代から70年代、静岡県富士市田子の浦港で問題となった公害である。
その被害範囲は「駿河湾」にまでおよび1970年8月に駿河湾の漁師が140隻以上の船で田子の浦に集結しヘドロ被害を訴えるほどだった。
原因は富士市内の150もの製紙会社による汚水排水が原因だ。
その量じつに100万トンを超え、不漁や悪臭など社会問題となった。
今回は1972年11月11日放送された物語なので2年前というと1970年に駿河湾の漁師が訴えを起こし、苦情件数も非常に多かった時期と重なる。
つまりヘドロが必要なウツボガメスにとって最も良質な時期のヘドロだったというわけだ。
ブラック将軍いわくウツボガメスは3000PPMもの汚染水に住んでいたウツボとウミガメを合成して生み出した改造人間。
ヘドロの中でも生存した強い個体を使用しているようだ。
ウツボとウミガメは魚とは違い一時的ではあるが陸でも生存できるため汚染水の被害も回避できたのかもしれない。
また近年の研究ではウツボはフグ毒への耐性があるようで、もしかしたら汚染水などの猛毒にも耐性があった可能性もある。
この公害は私が産まれるずっと前の出来事ですが海ってこんなにも汚かったの!?と驚愕しました。
ヘドロで汚染された海を進む船の様子はまるで流氷をかきわけているようであり、冬国の海でもないのに海が白く、近くで見ると白い泥水がプカプカと浮いています。
ヘドロは茶黒いイメージだったのですが、この公害のヘドロは白く濁っており、泥遊びの泥が綺麗に見えるほどです。
わざわざヘドロを作らせるわけ
ウツボガメスは良質なヘドロを求めて「都市公害研究所」に向かう。
研究所では「岡崎」という調査員が実験を行っていた。
彼は本郷猛の友人でありヘドロを使った実験を依頼されていた。
現在猛はヘドロの中に住む微生物を調べているようだ。
猛は生化学者なので公害による生物への影響が気になるのだろう。
だがウツボガメスの襲撃により警備員はやられ、岡崎は誘拐されてしまう。
その後、研究所を訪れた猛によって事件が発覚する。
確かにゲルショッカーには公害資料が足りないため科学陣が人工的にヘドロを作成するのも限界があったのだろう。
だが1972年時点ではまだヘドロの被害は続いており、変な話し田子の浦、もしくは製紙工場の汚染水を回収すれば良質なヘドロが取り放題だったはずだ。
翌年1973年になって「富士503計画」という1975年までにPPM0.03以下にする計画が動き出すのでまだ間に合うはず。
ヘドロ処理も完全に完了したのが1981年なので、ある意味悪いことのために海をキレイにする良いことができるというなんとも矛盾した状況になるのだがゲルショッカーにその選択肢はない。
ゲルショッカーは悪いことをしながら悪いことがしたいので、わざわざ人間のメリットとなりえる手助けをしてやる必要はないと考えるだろう。
それはそれで人間の愚かな過失として苦しんで頂こうというわけだ。
これらのことからゲルショッカーはわざわざ岡崎を誘拐したのではないかと考えられる。
完成したヘドロを美味しそうに頬張るウツボガメス。
今度は「白百合団地」のガス管に殺人スモッグを注入して実験。
白百合団地は夕ご飯時、ガス管からは黒いスモッグがモクモクと立ち上り団地の住人は次々とガイコツになってしまう。
食欲の秋に美味しそうなサンマを焼いていたらこんな目にあうなんて、死んでも死にきれない…
岡崎の精神状態
ゲルショッカーに誘拐された後の岡崎は終始様子がおかしい。
アジトに連れてこられても抵抗せずに淡々とヘドロを作成。
猛と滝を呼び出し油断させ地下牢に落とし、ご満悦の表情。
岡崎と共に地下牢から脱出し、猛のマンションで介抱しているところウツボガメスが襲撃。屋上で迎え撃つが岡崎に背後からパイプで殴られる。
状況だけ見ると岡崎は自分の意思でゲルショッカーの仲間に入ったように見える。
そうこう考えながら物語を見続けるとその違和感の正体が判明する。
なんと岡崎の脳には「命令音波受信機」というものが埋め込まれ洗脳されており、裏切り数々はこれが原因だったのだ。
物語終盤までネタ晴らしがなかったし、俳優さんの演技が正気と狂気の入れ替わりがナチュラルだったので本心から裏切っていたように観えたほどだ。
この命令音波受信機で操られている人間は命令がないとまるで魂の抜けた人形のようで…そう…まるでロボットの待機状態のようにぼ~っと宙を眺めて無反応となる。
それが不気味であり精神を掌握された人間は人形よりも表情の豊かさも失ってしまうのだと感じた。
この命令音波受信機はおそらく前回「イソギンジャガー」の脳に埋め込まれていたものと同種であり、変身機能を取り除き洗脳に特化したものだと考えられる。
変身機能がなく、怪人にならなければ頭部を狙われて破壊、除去、洗脳に気付かれるリスクも低く、目的を悟られずに猛たちを罠におびき寄せられる。
ブラック将軍も考えたものだ。
この受信機さえ取り除けば元に戻るという猛の発言にほっとするが、万が一手術で後遺症が残り、あのまま抜け殻廃人のようになってしまうかと思うと恐ろしい。
ウツボガメスは完全改造人間?
前回の例からウツボガメスも脳に変身装置を埋め込まれたタイプの怪人であると考えたが今回はそうではないようだ。
そう考える理由はウツボガメスの特性から予測することができる。
ウツボガメスは頭部を切り離し独立させ遠隔で行動することができる。
この方法で仮面ライダーにかみつき攻撃を行うがライダーパンチで頭部を破壊されてしまう。
もし頭部に変身装置があればこの時点で変身解は除されているはず。
まあ頭部が無くなってもウツボガメスは自我を持って行動していたので、あれは頭部に見せかけた武器の一部であり、脳が存在する場所は頭部の接合部、もしくはもっと奥にあった可能性もある。
頭部の無くなったウツボガメスは接合部の断面が弱点とばかりに丸見えである。
そこにライダーキックをくらった時のウツボガメスが転がること転がること!
ウツボガメスの甲羅はカメというよりアルマジロに近いのでよく転がりますね!
ちなみに私は昔ミドリガメを飼育していたのですが、カメの甲羅って意外と丸いものばかりではなくミドリガメのように三角に近い甲羅もあるんですよね。
あまり上手に育ててあげられなくごめんよ…ジェームス…
また…風向き作戦か…
岡崎に不意打ちをくらい気絶させられた猛、滝は岡崎とともに岩場で磔になり死刑執行を待つ。
ここで「東京全滅作戦」が決行されるというのだが、方法はこうだ。
ウツボガメスの殺人スモッグをおあつらえ向きの風向きに乗せて東京へ届けるというものだ。
…これ81話「仮面ライダーは二度死ぬ!!」でもやりましたよね?仮面ライダーの修行場から風に乗せて「サソリトカゲス」の「酸欠ガス」を散布する作戦と既視感がある…
もうガス系統の作戦は全て風が頼り。確かに人工的に散布したり風向きを作ったところで急な天候には勝てないですからね…
逆に言えばちゃんと風を読まないと向かい風で自分たちがガスの巻き添えをくらう可能性もある。
う~ん何か良い作戦はないものか…
ストーリーの転換点と考察
ヘドロ製作依頼人物の周辺
これは運が悪いとしか…まさか岡崎が猛の友人で、しかもこのタイミングで猛はヘドロの中の微生物を研究しており、さらにはその実験を公害研究所で行っていたなんてゲルショッカーも予想できなかったでしょう。
水場の好きなゲルショッカーが招いた誤算
旧ショッカーもゲルショッカーも水場の近くにアジトを構えることが好みなのは周知の事実だと思う。
今回も例に漏れず水場の近くに構えており、仮面ライダー、滝、岡崎を地下牢へ閉じ込めることに成功するも、ライダーパンチで地下牢に穴を開け湖に逃げられてしまう。
もし水場が近くなければ脱出不可な3人を始末できたはずだ。
今回の特撮表現の面白さ
ウツボガメスの殺人スモッグ強弱表現
ウツボガメスは良質なヘドロがないと強力な殺人スモッグを吐くことができない。
序盤に囚人に放った弱いスモッグは赤色の煙で表現しており、良質なヘドロを取り込んだ強いスモッグは黒色のスモッグで表現している。
白百合団地のスモッグ被害表現
白百合団地の模型の中から黒色の煙を焚き、窓部分から噴出させることで団地全体が殺人スモッグの被害にあっていることを表現している。
ウツボガメスの頭部空中浮遊
透明な糸かなにかでウツボガメスの頭部を吊るして動かすことで頭部だけで動いているように観せている。
ウツボガメスの甲羅アタック表現
ウツボガメスはカメのようにスーツに腕を引っ込ませてガメラのように空中に浮遊しながら甲羅アタックを繰り出す。
これはスーツをぶん投げることで甲羅アタックを表現していると思われる。
だがこの表現のミスが1つある。
それは甲羅アタックを繰り出す前後のシーンに関係がある。
甲羅アタックを放つ際に甲羅の上に何やらビラビラなものが見える。これはウツボガメスの頭部のトサカだ。
これがあること自体は何も問題ないのだが、問題はこれが頭部が破壊された後のシーンであったということだ。
頭部はすでに仮面ライダーによって破壊されているので、その後甲羅アタックでトサカが見えるはずがないのだ。
これはまあ…重箱の隅をつつくようなものなのだが、あのビラビラはなんだ!?と思ってしまい正体を突き止める過程で見逃せなかった…
たかがメインカメラをやられただけだ!
大木を小さい木で表現
ウツボガメスの甲羅アタックが大木に命中して倒れることで威力の高さを表現するシーンがある。
よくよく見ると大木ではなく、小さい木が倒れているのだが、下からアップで映すことで大木が倒れたようにみせる工夫がされている。
地下牢からの脱出表現
洗脳された岡崎に騙され地下牢に落とされた仮面ライダーと滝、そして用済みとなった岡崎。
殺人スモッグを噴出されピンチに陥るが地下牢の向こう側が湖に通じていることが判明。
ライダーパンチで壁に穴を開けると水が噴き出す。これは模型の壁の向こう側に水源を用意して壁を破壊することで水が勢い良く噴出するという仕掛けがある?
また湖の底から3人が浮かび上がる表現は模型を水に入れて画面下から上昇させることで表現している。
命令発信装置のかたち
岡崎の脳には命令受信装置が埋め込まれていた。
そして命令発信装置はブラック将軍が持っていた。
この発信装置のアンテナ部分には79話「地獄大使!! 恐怖の正体!」で旧ショッカー首領がライダー少年隊本部にメッセージを送った時の受信装置と同じものが使われている。
特撮満足度(★で5段階評価)
特撮満足度
アクション:★★★☆☆
高所:★★★☆☆
火力:★★★☆☆
水場:★★★★☆
仕掛け:★★★☆☆
第85話の名言・迷言・珍言・失言
ゲルショッカーの囚人「おい!みんな助かったぞ!俺たちは生きてるんだ!」
ウツボガメスの毒ガスは当初想定していたスペックのものではなかったため囚人を使った人体実験は失敗に終わる。
その時に囚人から出た歓喜の声が上記である。
今までの話しでは確認する限りだと実戦投入前の怪人実験で失敗した描写はない。
ショッカーそしてゲルショッカーに捕まったものは仮面ライダーが助けに来ない限り、基本的には生きて帰れない。
そんな絶望の中、実験失敗となった時の多幸感は相当なものだろう。
だがその後この囚人たちがどうなったかはわからない。再度殺されたかもしれないし、ウツボガメスの撃破後に解放されたかもしれない。
ただ一時でもゲルショッカーの失敗に歓喜する言葉は胸に響くものがあった。
ウツボガメス「無理で済むのか!ブラック将軍!」
ブラック将軍が公害資料が不足しているゲルショッカーではウツボガメスの毒ガスに必要なヘドロを生成するのは無理だという発言に対してウツボガメスが言い放った言葉。
一瞬失言とも思える発言だが、さすがはブラック将軍。
理にかなった申し出であれば聞き入れる器があるようで軽く知能を使ってウツボガメスを納得させている。
今までの最高幹部であれば理にかなってようと生意気な態度であれば殺されていただろうがウツボガメスは上司に恵まれたようだ…恵まれたのか?
ロケ地(執筆者の調べ)
・「不明」
次回予告より(第86話「怪人ワシカマギリの人間狩り」)
次回のゲルショッカーからの刺客は怪人「ワシカマギリ」。
「鷲(わし)」と「カマキリ」の特性を持った怪人だ。
ワシは目の鋭さ、カマキリはカマの鋭さとどちらも鋭利な印象を受ける生物だ
ゲルショッカーはワシカマギリの「ミサイル爆弾」で「悪魔の人間狩り作戦」を企んでいる。
今までは毒やガスを使いいっぺんに人間を葬ろうとしていたショッカーだがあまりにも仮面ライダーが作戦実行前に阻止するものだから今度は地道な作戦に切り替える。
ある日事件を起こし一気に大混乱を起こすのではなく、コツコツ人間を狩りじわじわと恐怖を植え付けていくのかもしれない。
ワシのように空中からミサイル爆弾を落とすことで日本人に戦争の恐怖を思い出させるつもりか!
そしてカマで人間を狩る…カマキリだけに…
感想・まとめ
前回は戦争問題、今回は公害問題に切り込んでいる。
この時代は戦後間もない時期、そして高度経済成長期が重なった激動の時代。
それだけただ、がむしゃらに突き進み環境問題なんて考える間もなく急激に成長してしまったのだ。
なまじ焼け野原の復興は何をやって新しく、成長、成長、成長の繰り返しを体験すれば周りも見えなくなる。
その未知なる成長の先が未知なる公害というわけだ。
でも公害は起こし側だけの問題でしょうか?責任はもちろん起こした側にあるのでしょうが製紙工場もみんなが紙をもっともっとと求めたから製造していたのではないでしょうか?
例えば極端ですけど食材をもっともっと消費してくれと政府から言われたとします。国民は指示通りに食材を多く消費しますが、その代わり消費が多いだけウンコも増えました。
これに対して政府が公害だ!っていうのは違いますよね?
食材を多く消費すればウンコの量は増える。紙をたくさん求められればそれだけ産業廃棄物も出る。
人間が欲望のまま消費すればこうなることはある意味誰のせいでもなく、人間のせいだ。
だからこそ誰がという目線で環境問題に取り組むべきではないのかもしれない。
ウツボガメスはそんな人類の公害から生まれた怪人だ。
人類がゲルショッカーの悪行に彩りを与えてしまったのだ…
今回判明したこと
・猛は現在ヘドロの中の微生物を研究している
・ゲルショッカーは命令電波受信機なる装置を人間に埋め込み自由に命令を下すことができる